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沼の前でこわい話をした

懸賞 2010年 04月 18日 懸賞

沼はこわい。
深さがよくわからない。
そもそも底がはっきしないのだから、どこからどこまでを深さというのか? よくわからない。
沼にはたくさんの生き物が住んでいそうである。

先日、よいこぐまさんと目黒の自然教育園へ行った。
入り口でピンクのリボンを付けて中へ入ると、樹木の間を遊歩道が伸びている。都会にこんな林があるんだ。
道端に「1.茂みの中から強い香りがしませんか。」と書いてあったので、ふたりで柵の中までからだを乗り出して匂いを嗅いだが、なんの匂いもしない。ちょっと枯れかけた花が咲いていたので、くんくんと匂ってみたが、やっぱりだめだった。「においません。」と、ふたりして笑いながら、奥へと進んでいく。
園内マップをみると、この先に「水鳥の沼」があるようだ。
沼に着いた。
あたしは沼を見たことがあっただろうか? 以前、沼の近くまで行ったが、こわくて寄らなかったのではなかったっけ?
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「水鳥の沼」に、水鳥は1羽もいない。
覗き込むと、濁った水面の奥に、泥の底が見える。案外浅いみたいだ、とよいこぐまさんがいう。
沼の前にベンチがある。ここに座ろうよ、あたしはよいこぐまさんを誘う。彼女は今、怪談を書いていて、こわい話を募集中である。どんよりとした水面、久々の天気で空はとても高い。
あたしたちが交互にこわい話をしていると、よいこぐまさんが突然、「あれ!」と沼を指差す。おお、指の先には、この沼の主、巨大な鯉が泳いでいる。
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よいこぐまさんの家に住むご先祖さまたちの話、近所の神社や、埋められた井戸の話、あたしが小さいときに体験した変死体のゆうれいの話、半蔵門の職場で体験した、幽体離脱や、“前の日のあたし”を見てしまった同僚の話・・・時間を忘れて話し込んでいるあいだ、灰色の巨大鯉は、ゆっくりとゆっくりと沼を旋回している。
「あっ亀!」またもや、よいこぐまさんの指の方角を見ると、一瞬亀が顔を出し、もぐってしまった。「ブリキの亀みたいだった」よいこぐまさんは言う。
日が傾きはじめたので、「そろそろ歩く?」とあたしは誘う。満開の桜、桜の花びらに覆われた池。青もみじ。ごつごつした大木の幹に触ったりしながら、歩いていく。湿地帯で小川や夢の中のような遠くの花を見ていると、近くにいたカップルが、鳥がいるよ、と教えてくれる。樹木の向こうにとても大きな鳥がたたずんでいた。
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(帰宅してから調べるとアオサギだった。体長80~100センチもある。)
出口に近づいた。日陰のあちこちに、ぜんまいと生まれたての羊歯が生えている。「羊歯はうつるんだよ」とあたしはいう。「羊歯に触るとそこから生えてくるよ。」
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生まれたての羊歯は毛で覆われていてふさふさしている。ふたりでそうっと触れてみる。
「あっ、羊歯を触った手で目をこすっちゃった。。」よいこぐまさんがいうので、「目から生えるよ~」と笑いながらあたしたちは自然教育園を後にした。

# by riz-blank | 2010-04-18 15:10